第壱章:撃てない軍隊

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「了解!高濱!俺がコイツを墜とすまで踏ん張れ!すぐに行く!」 「了解です!」 が、既に敵機は八島機の後方に張り付きいつでも発砲できる態勢を取っている。 敵機が機関砲を発射すると同時に八島機は上昇しつつ急減速。 再び降下し敵機の真後ろに付く。 あまりに一瞬の出来事で、敵機側は訳が分かっていないらしい。 HUDに機関砲のガン・レティクルが表示され、TDボックスが敵機と重なり「SHOOT」の文字が表示される。 八島は躊躇無く操縦桿のトリガーを引き絞った。 発射された弾丸は目標の後部に突き刺さった。 左の垂直尾翼が吹き飛び、どうやら左エンジンにも直撃したらしく黒煙を吹いているがかろうじて飛んでいる。 八島は右旋回して離脱するが、その途端に警報機がピーピーと悲鳴を上げ八島に被ロックオンを告げてくる。 「何処だ!?」 八島は咄嗟にレーダースコープを見やるが、敵1番機は今だ高濱を追い回している。 つまり先程戦闘能力を奪ったと思っていた敵2番機がHMDによりこちらを照準しているのだ。 R-73空対空ミサイル。 NATOコードネームはAA-11アーチャー。 前述したようにこのミサイルはHMDによりパイロットの視界内の任意の敵をロックオン、攻撃することができる。 極めて低温に冷却された非常に敏感な赤外線シーカーを装備し、ミサイルの前方、仰角60度の範囲内を追尾できる能力を有している。 ミサイルの最低飛行距離は300m。最大飛行距離は30㎞と言われる。 八島はフレアを射出し、すかさず左上昇旋回に入った。 間髪入れずミサイルアラートが鳴り敵機のミサイル発射を知らせてくる。 しかし、ほぼ後方という射界ギリギリの範囲で、ミサイル自体も機動限界に近い。 発射されたミサイルが急旋回の後にその視界に捉えた熱源は八島のF-15ではなく八島の発射したフレアであった。 ミサイルはフレアを目標と誤認。そのまま突っ込み信管を作動させ自爆した。 敵機の最後の足掻きは露と消えた訳だが、近距離でほぼ真後ろでなかったらかわすのは容易ではなかっただろう。 敵機は最低でももう1発はミサイルを搭載しているだろう。 高濱を助けに行って後ろから撃たれたのではたまったもんじゃない。 八島はミサイル回避の後、そのまま左宙返り。 敵機撃墜を決意した。
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