第壱章:撃てない軍隊

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八島は左宙返りをしつつ選択兵装をAAM-3にスイッチした。 AAM-3は、正式名称「90式空対空誘導弾」。 AIM-9Lサイドワインダーの後継とした開発された国産空対空ミサイルである。 形状的にはAIM-9に酷似しているものの、カナード形状及び弾頭部分の形状が違っている。 八島はHUDに表示されたASEサークル内に敵機を入れる。 サークルが大きくなり、「ビーー」と連続的なブザーが鳴る。 AAM-3のシーカーが敵を捉えたという合図だ。 HUDに再び「SHOOT」の文字が表示される。 八島は躊躇い無く操縦桿上部の赤いボタンを押す。 「ELBOW 1, FOX2」 翼下パイロンのランチャーに搭載されたAAM-3が勢い良く滑り出す。 敵機はフレアを射出するが空戦機動もままならない機体では気休めにもならなかった。 直後AAM-3は寸分の狂いも無く敵機のエンジンに直撃した。 「ELBOW 1,kill」 「エルボー1、確認した。状況を継続せよ」 「高濱!今行くぞ!」 八島が見たところ、敵機は高濱を追いかけていると言うか、手玉に取って遊んでいる様に見えた。 しかし、僚機が墜とされた事を知ると敵機の機動のキレが変わった。 (いかんっ!!) 八島は咄嗟にスロットルをMAX位置へとぶち込んだ。 最高速度マッハ2.5を叩き出すF-15JのF-100-IHI-220Eエンジンが雷鳴の如きエンジン音を響かせ、紅蓮の炎をノズルがら噴出させる。 「先輩!早く来て下さい!!」 「逃げろ高濱!」 (しかしアイツ、片ばいでよくあんなに器用に飛べるな) 八島は首尾よく敵機の真後ろを陣取る。 そしてレーダーをスーパーサーチモードへと切り替えた。 レーダーを真正面に照射しっぱなしにするモードである。 レーダー警戒装置の電源を切っていたり、ぶっ壊れていなければ、敵のコクピットでは警報機が泣き叫んでいるはずである。 それでも避けるそぶりは無いので、八島は機関砲発射を意味する「FOX3」をコールした。 20㎜砲弾は間違いなく敵機に命中し、敵は速度を減じたものの撃墜には至っていない。 敵機の機動が鈍くなった隙に、高濱は左のヨーペダルを緩め操縦桿を右に入れた。 左右の推力バランスの不均衡により機体は右へ急速横転。 そのまま操縦桿を引き離脱を計った。 だが、被ロックオンを知らせる警報機が鳴り止む事はなかった。
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