第壱章:撃てない軍隊

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「ELBOW 2,vector to final,turn heading 120,runway 05L approach,descent and maintain 5000.QNH 3015」 『エルボー2、最終誘導、方位120度へ旋回、滑走路05レフトへアプローチせよ、高度5000ftまで降下し維持せよ。高度計規制値は3015』 「緊急着陸だ!ランウェイ05レフト、エマージェンシークローズ!!消防班、医療班は即時待機!!」 程なくして、高濱のF-15Jが黒煙を吹きつつ滑走路に滑り込む。 機体は大きなフレアーをかけ急減速し、滑走路上に停止した。 それと同時に消防車と救急隊が全速力で機体に向かって行く。 消防車は直ぐさまエンジン部分に泡状の消火剤を撒き散らした。 キャノピーが開き、掛けられたラッタルをつたって高濱が降りてきた。 高濱は有無を言わさず救急車に乗せられ搬送されていく。 その後、火災の危険性無しと判断された機体はハンガーに入れられ、技研による調査が入れられた。 技研の調査が入る前、整備士がコックピットで見たGメーターの最大記録は9.0。 機体に掛けられるぎりぎりのGだ。 単純計算して、体重60㎏の人間は540㎏もの荷重が掛かった事になる。 嘉手納基地周辺では、待ってましたと言わんばかりに左翼団体の活動が活発化し、直ぐさまそれを右翼団体が食い止める。 明日になれば他の自衛隊基地や、市ヶ谷でも同じような状況になるだろう。 日本政府は中国に対し遺憾の意を表明すると共に、殉職した八島 宏義三等空佐とその遺族に対し謝罪を求めた。 中国側の説明は、「部内の反日グループが独自に起こした行動」だとし、「首謀者及び関係者を即時逮捕する」と言ってきた。 同時に中国共産党軍事部は会見を開き、正式に謝罪した。 そして事件はF-15を1機と人間1人を失い、国民やマスコミ、知ったような顔をしてテキトーな事をぬかすコメンテーターらの自衛隊批判を仰ぎ収束したかに見えた。 しかし、連日報道される所属不明機。 スクランブル回数は冷戦時代のそれを優に越えた。 先の事件で、周辺国は日本の防空システムの欠陥を確実に見出だしていた。 自分から相手を攻撃しなければ、自分が攻撃される事はまず無いのだ。 それを確信した周辺国は堂々と領空に侵入し、電子情報を収集してみたり、ECMによるジャミングを試してみたりなどすき放題にやりはじめた。
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