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目の前の小渕は、銀の包みを嬉しそうに開いてチョコを口に入れた。
「今は逆チョコってのもあんねんて。」
すごない?
モグモグとかみ砕きながらしゃべるから、甘い匂いに誘われる様にその口元にばかり目がいってしまう。
「どぉーでもいい。」
「えー、話広がらへん…」
だってほんまに興味ゼロ。大体、皆バレンタインに踊らされすぎとちゃう?
それより、美味そうなのはチョコレートか、
その唇か。
なんて、しょうもない事考えてる俺の口にも小渕がチョコを放り込む。
「あ 美味い。」
「せやろ?これ、新発売やねん。他にもな、チェックしとるやつがあって…」
「お前、そんなんよぉ、女子高生ちゃうねんから。」
「ええやろー、別に。」
いや、ええよ。
ええけどな、俺らもうオッサンやで。
ふたつ目に手を伸ばそうとして、まだ不満げな顔を見せる小渕に、やっぱり確かめたくなる。
「なぁ、食べてもええ?」
ん、二個を?
ええよ、頷いた瞬間、目の前が暗くなって小渕はそれが何か分からずに息を止めた。
え、なん…これ、
唇が触れる様に重なったかと思うと、生温かい黒田の舌が入ってくる。
あ、やっぱりチョコの味すんねや。
そんな呑気な事を思う位、考える隙を与えてもらえないキスに呼吸を奪われる。
「んん…は…ぁ…」
逃がさない様に顎を掴んでいた黒田の指から逃げないとわかって力が抜かれる。
添えられているだけになった指先も今なら甘いに違いない。
唇が離れて、ふあっと息をついた小渕を前に黒田は、首を傾げていた。
これじゃあ分からんな。
美味しいのはチョコレートか、小渕の唇か、
分からへんかったからもう一回。
チョコレートより甘いキスを……。
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