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『お若いの。これから東の大陸に向かうつもりですかな?』
頭は剃っており、髪は一本もない。服装は、見たこともない不思議な物だ。兎に角説明しづらい。
『えぇ。まぁ。あちらの方にも商売をしに。』
魔族を倒しにいく、とはどう考えても信じて貰えないとは分かっていたので、ここはあえて商売に行くと言った。あながち間違ってもいない。
老人はその答えを聞いて直ぐに言葉を返した。
『嘘をつくのは良くない。魔族を征伐に向かうのでしょう?』
あまりにもあっさり言われたので、驚くのに時間が掛かった。老人は清々しい笑みでこちらを見ている。
『どうしてそうお思いに?』
『こんな世の中です。いつ魔族に襲われるか分かったものではない。だがあなたは今一人。そんな状況で商売に行くと言った。しかも、一番魔族から襲撃を受けたら厄介な海を越えようとしている。』
成る程、鋭い。この人はどうやら侮れないようだ。
『参りましたな。まさか魔族の討伐を信じている人がいるとは。』
『それは私とて同じ。まさか魔族の討伐に乗り出している者がいたとは。勇者様がお亡くなりになってから人々は抵抗を止めたものだと思っていました。』
懐かしむように老人が語る。その目は遠くを見ていた。
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