頼りなき希望

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勇者なんてのは放っておけば何人も出てくるものだと思っていた。だから俺は、あの噂を聞いたとき、少なからず驚いた。 『この間ケルベロスに殺された勇者様。あのお方がこの世の最後の勇者だったらしいぞ』 その噂を聞いたのは、あの男の死体を確認した二週間くらいたったことであった。 なんでも、勇者とはアルバートとかいう厳格な家系が昔から受け継いできた、一種の職業であるらしく、あの男はそのアルバート家の最後の人間だったそうだ。 ここで誤解しないでほしいのは、勇者でないと魔族は倒せないのかといったらそうでもないということである。実際、俺も今までに何体か魔族を倒してきた。 だが、いつも平和と共にヌクヌクと育ってきた一般市民どもには魔族に抵抗するだけの勇気はなく、最終的に勇者にすがるより他なくなってしまったのである。 今となってはその最後の希望も死に、地上の連中は完全に生気を失ってしまった。 冗談じゃない。こんなセミの脱け殻みたいなのが世界中にいたんじゃ商売が成り立たない。 『俺は御免だぜ。あんな訳のわからない奴等にこの世を支配させたまま死ぬなんて』 気がつけば俺は、第四の魔族であるユニコーンの元へと向かっていったのだった。 なんとも頼りのない奴が世界を救うもんだなと、自分でも思ってしまった。
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