0010

2/6
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
昼間でも静かなこのマンションに一人暮らしをしてからもう一年前後になるのか、とまだ熱でボーッとする頭でなんとなしに考えた かつて『ガゼル』と呼ばれていた青年は年の割には華奢なその身体をベッドの掛け布団で鼻まで覆い隠し、もうすっかり見慣れた天井の景色をかれこれ半日はこうして眺めていた 微睡んでいた意識を戻す様に不意に玄関のインターホンが鳴ってすぐに鍵が開いた 「起きてるか、風介ー」 いつもと変わらない声が聞こえて寝室であるこの部屋の扉が開いた。この家の合鍵をポケットに突っ込みスーパーの袋を左手に持ったまま、かつて『バーン』と呼ばれていた青年がひょっこりと顔を覗かせた 「晴矢…」 おっ生きてた。小さく呟かれた言葉に悪かったな。と返すと晴矢は苦笑いをしながらベッドのすぐ傍に腰をおろした。買ってきた林檎の皮を慣れた手つきで剥いていく。上手いな…。少し関心した様に風介が言うと当たり前だろ!と得意げに返してくるから風介はフフっと笑ってしまった 晴矢が切ってくれた林檎を食べながら今日の授業がどうとかこんなことがあったとか、他愛もない会話をする 「…もうそろそろ寝なくて良いのか?」 晴矢が風介の額の髪をかきあげ掌で熱を計る。少し熱い体温から見て大体37.5度位だろう 「ん、平気…それに…晴矢と一緒にいた、い」 「……………え、なにそれ誘ってんの?」 普段なら絶対に言わない風介が一緒にいたい、と言った。それだけでも結構なダメージなのに潤んだ瞳と紅潮した頬(+パジャマ)で更にダメージが追加。本来ならもうとっくに襲っている所だが、一応病人相手なので訊いてはみる
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!