序章

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序章

暗い暗い闇の中… 僕はその暗闇の中に居た。たったひとりで… いや、正確には僕だけじゃない――― 他にもなにかがある。 死体だ。 目の前にナイフで腹部を一突きにされた女性の死体が転がっている。 どの位の年齢なのか、どんな顔なのかもわからない。ただ、僕がこの状況を把握しようとしないだけだ。現実を直視しようとしないだけだ。ただ、髪型だけは分かった。視界に偶然入ったと言ったほうが正しいだろう。その髪型は――― 暗闇の中がその女性の血で赤に満たされていく… なぜこうなってしまったのか、この人は誰なのか、さっぱり分からない。 分からない…どんなに記憶を探ってみてもまるで思い出せない。 疑問は出てくるのにその答えが出てこない。 これが人間の性なのかわからないが、脳が勝手にこの状況を把握しようと回転し始める。 この人はなんで殺されたのだろう、ここにどのくらいいたのだろう、僕は誰なのだろう―― そして… 『ここは何処なのだろうか―――』 その考えに至った瞬間目の前が真っ赤になって意識が遠のいていった…。
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