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翌日、ファミレス。
今朝、体調不良で有給休暇(あながちウソでもない)を取得した学は、みゆきの指定したレストランで、あのカレーパンの生みの親を待っていた。
…日中待っていたが、五代さんと少女から連絡は無かった…
緊張とはやる気持ちで6時半頃着いてしまった学は、オフだと言うのに何故かスーツで来てしまった。夜にはまだ早く、鮮やかな夕暮れとヒグラシの鳴き声が夜の始まりを歓迎している。都心でも豊かな自然があると認識でき、若干彼の顔が綻ぶ。
学校のホームページで検索したが、講師は全員外国人だった。まず日本語が通じないことを覚悟しなければならない。辞典を引きながら会話などできるはずもなく、高校の時にもっとちゃんと英語を学んでおけばよかったと後悔した。通訳してくれる原田には、感謝してもしきれない。手掛かりは学の記憶だけである…似顔絵を描いてみたが、全然うまくいかない…何度も思い出そうとしたのに、ぼんやりとした輪郭さえ分からなかった。
ホクロやエクボ等、特徴のある顔ではなかった。…明確に思い出せるのはやはり制服だけ(探す時に描いていたりしたため)で、コレじゃあ、何の手掛かりにもならないんじゃないかと絶望する。
ウェイトレスを呼び2杯目のコーヒーを頼んだ所で、原田からメールが入る…
「今駐車場にいるから、出入り口に来て」
”??出入り口に来て??出迎えが必要なのか?”
首を傾げながら席を立ち、ウェイトレスに「すぐ戻ります」と声をかけ、外に出てしばらくすると…車椅子を押しながら原田がこちらにやって来る。
気品のある老齢の女性がそこに座っていた。青く澄んだ目と、銀と金の混ざった頭髪は、彼女が外国人だと言っている。
『こんばんわ、原田さん…と、…へ、へロー、ないすとみーちゅー…」
学の発音がおかしいのか、自信なさげな顔がおかしいのか、二人は爆笑する。恥ずかしくて赤くなる学に「無理しないで」と声をかける原田。
出入り口を通るには階段を登るしかなく、彼女だけではこの女性を上げることがかなりキツそうだ。
先生に手を差し伸べ、手を繋ぎ、立ち上がらせる。「車椅子、積んでくるね」と原田は駐車場に戻っていくが……
”……う〜〜ん……「本日は時間を割いていただき、ありがとうございます」って、どう言えばいいんだ?”
オレを見る先生の青い瞳に返す言葉がなく、黙っていると…
『you are very kind and handsome.』
しわがれながらもよく通る声でそう言われるが、ネイティブレベルの発音では、簡単な単語も学にはわからず苦笑いを返す。しかし、先生は微笑んでいた…
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