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”これは、遠い昔のあの日…彼女から貰ったカレーパンだ。厳密には違うだろうが、間違いない。”
『先生を教えてください!先生の教えてくれたレシピなんですよね?これ』
学の興奮はおさまらない。
”手掛かりの一つなんだ。逃してなるものか。”
『お家で、作りたいの?』
『違います!』
『じゃあ、作りに行ってあげよっか?』
『結構…あ、いや、失礼しました。そうじゃなくて!』
カレーパン自体に興味があるのではないことを、説明する時間が惜しい。もどかしさを隠さずに学は焦り、苛立っている。
『コレの作り方を知っている先生が知りたいんです!教えてください!』
彼女は学の迫力には興味がなくなり、黙った。
”目の前にいる顔だけいい男は、一生懸命カレーパンを作った自分を全くほめず、私自身にも全然興味がないんだ”
そんな感じの冷たい目で学を見ている。完全に怒っているようだ。
『自分で勝手に調べれば?』
彼女はケータイを取り出し、冷たく言い放つと、オレにひらひら手を振り、操作しながら歩きだす。
”ヤバイ。焦って、完全にしくじった。恭子の機嫌も悪い…多分教えてはくれまい。恭子がその先生を知らない可能性もある。つまり今、原田に聞かねば、取り返しがつかないかもしれない。”
『ま、待って!原田さん』
原田を走って追いかけ、また肩を掴む。彼女は不機嫌な表情で振り返り「なによ」と答える。
『本当に失礼しました。謝ります。ごめんなさいっ!』
真摯に頭を下げる。そのまま数秒黙った後、続ける。
『オレ、過去に事情があって、これの作り方知ってる人、探してたんです。ガキの頃からずっとです。後生です、お願いします!』
学は頭を下げたまま、黙っている。彼女はしばし考えていたが…やがて腕組みをして言った。
『人に何か頼むのは、タダじゃないのよ?』
オレは顔を上げ、慌ててカバンから財布を取り出すと、すぐに制止される。
『違う違う、いらないわよそんなの。…わかってないのね』
もう一度頭を下げる学。
『わかりませんっ!教えてください、何でもします!』
彼女はさらにしばらく黙っていた…
多分オレの後頭部を見て思案しているだろう。彼女の顔が見えないオレは気が気じゃなかったが、今頭を上げるわけにはいかない。
数秒後、原田は一つため息をつくと、「”何でも”2回目」と呟いた。
学が顔を上げると、彼女はケータイで誰かにかけ、話し始めた。
ネイティブレベルの英語に呆然とそれを眺める学。
やがて学をチラリと一瞥した彼女は「…OK,Hold on second」といい、ケータイを耳から外し言った。
『明日の夜7時、学校の近くのファミレスだよ?選択権なし。OK?』
何度も何度も首を縦に振る学。
原田は面倒くさそうに電話に戻ると、電話の相手に感謝を伝え、切った。
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