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涙ぐみ、感謝の意を述べるが、原田はまだ学を許したわけではなく、いささか険しい視線で見ている…
『原田さん…重ねてこんなこと頼めた義理じゃないですが…明日一緒に来てくださいませんか?…その…オレ、英語喋れないので…』
彼女は再び歩き出し「やーよ」という。学は並んで歩き、彼女に手を合わせながら懇願する。
『お願いします。頼める人原田さんしかいないんです。なんでも…』
学がまたなんでもと言うと、彼女はこちらを睨む。
『“なんでも”3回目。アンタに一体何ができるって言うのよ』
彼女の冷たい視線に気圧され「大したことできないですよね…」と、頭を下げる。
『はぁ…ま、いいわ。その3回言った“なんでも”の一回をここで使う』
ピシャっと言い切った彼女にゾクっとする学。
『カレーパンの事情を、全部話して』
彼女の視線の先を目で追うと、喫茶店がある。頷く学。
――――
喫茶店、テーブル席。
”オレは家の事情から彼女に会い、お礼をもらった経緯まで、原田にすべて話した。家の事情はなるべく言いたくなかったが、それを抜きにすると話の整合性が取れないし、彼女も納得しないだろう。”
「…以上です」オレがそう締め括ると、彼女はカップをソーサーに置き、目を閉じた。…しばしの沈黙の後、口を開く。
『…キミは、その人に再会してどうするつもりなの?何をしてあげるわけ?』
『何年も探していました。…オレはいつしか、もう二度と会えないと思うようになりました…だから“何をしてあげよう”なんて、考えたこと無いんです…彼女に会えたら…彼女の望むものすべてに全力を尽くすと思いますが…』
原田はまた目を瞑り、考える。
”気のせいかな?話の間、少し動揺していたようだが…今、彼女の目が見れないと、何も読めない…”
『“桜井くん”もう、諦めたら?先生に会ったって、手掛かりすらないかもよ?先生はご高齢で、何千、何万人にレシピ教えてきたかわからないわ…その中から見つけようなんて、雲をつかむような話よ』
オレはその言葉に、首を横に振る。
『仰る通りです。……でも……あれから8年経って、やっと得た、たった一つの手がかり…このカレーパンは、オレの希望なんです!』
座席を引き、立ち上がり、頭を下げる学。
『どうか、お願いします!』
『ふぅ……わかった。私も行ってあげるわよ』
『あ、…ありがとうございますッ!』
最大級に大声で感謝を述べると、オレたち以外に客のいない喫茶店の空気が震え、グラスを拭いていたマスターの手からグラスが落ちる。
原田はそれに、苦虫を噛み潰していた…
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