カレーパン

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先生を席までお連れすると、3人で食事を注文し、原田を見る。 『原田さん、こちらの方は…料理の先生なんですか?』 先日見た講師一覧に、この人はいなかったため、少し訝しげに尋ねる。 『そうね…数年前まで講師だった方よ。…でも、あのカレーパンを考案したのは、この人で間違いないわ』 「わかりました。もう質問しても?」原田と女性を交互に見ると「いつでもどうぞ」と。話を始める学、流暢に通訳する原田…… ”オレは昨日原田に喋らされた事情を、簡潔に話した。家のこと、裏切られたこと、自暴自棄になり逃げ出した先で、少女に慰められパンを貰い、それが生きる希望になったこと…それが、あなたが作り出したパンであること。だから、あなたの教え子の中で、このイラストのような少女はいたか?と、見せながら問いかけた。1990年あたりであると、時期も伝えた。…オレはじっと真剣にイラストを見る二人を、固唾を飲んで見守る。頼む、思い当たってくれ…!オレは瞼を閉じ、ガキの頃から信じてもいない神に祈った。” 二人が会話を始めた。聞いたことのない英語が流暢に話され、全くわからない。…気のせいかもしれないが、会話の感じが軽く、思い当たる節がありそうな感じも伝わってくる。学は何となく希望が湧いてきて、固かった表情を緩ませた。…原田がこちらを向き、尋ねる。 『桜井くん、キミが走ってたどり着いたその公園は、雷禅市岩田区の、稲荷神社近くの公園であってる?』 確信がありそうな表情で確認されると、微笑みながら「はい」と答えるオレ。 さらに先生と二人で会話を続けると…結論が出たようだ。こちらに向き、話す原田。 『残念だけど、心当たり全然ないって』 『…………へ?』 ”ウソ、だろ…?マジで気のせいだったのか…?長いこと二人で喋ってたが…これ、何かの冗談?” 落胆し、うなだれ落ち込む学の様子を、二人は黙って見ていた。 ―――― 『…本日は貴重な時間を割いて私の話に付き合っていただき、本当にありがとうございました』 先生にお辞儀をする学、原田が流暢に訳していく…が、何故か様子がおかしい…何かを言い合っている。みるみる原田の顔が赤くなり、「もうやめてよ〜」的なことを英語で言った気がした。原田が赤い顔で学を見る。 『もう〜〜っ!…桜井くん。…もう、帰ろう?』 『はぁ、もう締めようと思っていたので別にいいですが……さっき、何を言い合ってたんですか?』 『ヤ。言いたくない』 膨れてそっぽを向くと、先生に英語で嗜められる原田。髪をくしゃっとかきあげる「わかったわよ!」と、こちらを向く。 『“このカッコイイ男の子は、おまえのボーイフレンドか、いつ結婚するんだ?”…ですって!』 投げ捨てるようにそれだけ言うと、原田はタコのように赤い顔を背ける。 もう、“彼女”を探す手掛かりがカケラも無くなったオレは、放心状態だった。「あ、ハイ。別にいいっすよ」とこともなげに言ってしまいそうだが、黙って赤くなっている原田の横顔をぼーっと見ていた……
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