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三人で手を繋ぎながらファミレスの階段を下りると、原田は「ちょっとお願い」と、駐車場へ走っていく。車椅子を取りに行くのだろう。
完全に手がかりを失ったオレはまだ放心状態で、彼女が駆けていく様をぼーっと見ていたが、「hey,handsome.」と声をかけられる。
先生の皺だらけの白い顔、青い瞳をぼんやり見ると、何故だか安らかな気持ちになった。学が祖母や祖父などの近親者を見たことも触れ合ったこともないからだろうか。そんなことを考えていた彼に、彼女はこう言った。
『曾孫をよろしくね』
”?………え?………?日本語?いやいや、ありえんて。大体ひいまごって、なんだ?誰の事?さっきまで完全な英語だったじゃないか。この人は完全な外国人じゃないか。”
『……すいません。あの、今、なんと?』
考えが追い付かず、額に手をやり目を瞑る学に、先生は握っている手の力を少し強くすると、問いには答えずこう言った。
『がっかりしないで。さっきは「何もない」と言いましたが。あなたの探している人は…あなたが諦めない限り、きっと見つかるわ。私が保証する。ね?』
そう言って、しわしわの顔をさらに皺だらけにして、学ににっこり笑いかける。と、車椅子を押しながら原田が戻ってくる。
『お待たせ〜!…ん?二人で何か話してた?』
オレは、そちらを向けずにいた。
目の前のこの老淑女から目が離せない。
『心配しないで…きっと“彼女”は、あなたの近くにいるわ。きっとすぐ、会えるから。元気出して』
『ちょ、ちょっと!お婆様、何言ってるのよ!“日本語禁止”って約束………』
何も聞こえなかった。鼓膜に伝わる振動など、今はどうでもいい。
オレの近くにいる?
“彼女”が?
いやいや、騙されないぞ。このオレが、こんな素人に、騙されるもんか。
これはきっと気休めや慰めだって……
まばたきをすると、目から雫がこぼれた。
あれ、おかしいな……花粉症、かな?
拭っても拭っても、あとからどんどん溢れて、止まらない。
春はもう…終わってるはずなのにな。
原田に文句を言われていた老淑女は、ニコニコしながら、「大丈夫だからね…」と、嗚咽を漏らすオレの頭を撫でていた。
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