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そろそろ俺は幻覚を見ているんじゃないかと心配になってきた。
桂花「来て。私は入れないけど、入り口まで案内するわ」
そういって、桂花が俺の手を取る。
だが、進む先は少し道から外れている。
一刀「桂花? 何処行くんだ? このまま道なりに進むんじゃないのか?」
桂花「こっちが近道なのっ! もうっ、一刀ったら! 私を信じて着いてきて!」
桂花が腕を絡めてくる。
一刀「……」
桂花「? 一刀? どうしたの?」
一刀「えっ? いや、しばらく会わない内に桂花が変わったと思ってたんだけど――」
桂花「もうっ! 昔の話はやめて! 私、本当に素直じゃなくて……、一刀に迷惑ばかりかけて恥ずかしかったんだから」
一刀「そんなことはないよ。ああいう桂花も俺は好きだから」
桂花「……」
一刀「でね、さっき再会して、髪も少し長くなってたし、顔も昔は可愛い感じだったのに、今は綺麗な感じに変わってて本当に驚いた」
背も高くなってたしね、と言いつつ桂花の髪を撫でる。
一刀「でもね、あまりに突然の変化だったから戸惑ってもいたんだ」
桂花には3年でも、俺には昨日の出来事なんだから。
一刀「でも変わってない所があった。だから安心してさ」
桂花「……変わってない所って?」
一刀「胸の大きさっ! ほらっ、こうやって腕を絡めても全然柔らかくない。小さいって言うより、無いよね、桂花って」
俺は、変わっていない桂花に気づけた嬉しさから微笑む。
たぶん、さっきの桃香の感触があったから、余計にそういう感覚が鋭敏になっていたんだと思う。
桂花「……」
あれ? どうしたんだろう? 桂花が小刻みに震えているような……。
少し失礼だったかな?
一刀「桂花?」
桂花「……も、もういやだ、一刀ったら。女の子にそんなこと言うのは失礼だよ」
何かに堪えているような、搾り出すような声だった。
桂花「そ、それよりほらっ! もうすぐだからもっとこっちに来てっ!」
さらに力強く腕が引かれる。
そのまましばらく歩いていると――。
一刀「――ぇっ!!」
俺は土を踏み抜いて、奈落へと落ちていった。
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