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――じゃあね! また会いましょう、一刀!
唐突に声が聞こえた。
俺が愛している女の子の声だ。
凛々しく、力強い。
ある時は戦場、またある時は寝台の上で、俺はその声をずっと聞いてきた。
最後に聞いたのは月の綺麗な静かな夜だった。
その声はとても辛そうな声音だったのを覚えている。
でも、今聞こえた声は違う。
まるでこれから始まるパーティを楽しみにしているような明るい声だった。
その声の余韻で、俺の胸も温かくなる。
一刀「華琳……」
何気なく目を開けた。
痛いぐらいの明るさが、視覚から脳に伝わる。
慌てて目を細め、光に慣れさせるために今度はゆっくりと目を開けていく。
一刀「……え?」
自然と声がこぼれ落ちた。
目の前に広がる荒野に対する、それが俺の精一杯の反応だった。
一刀「え、え、え?」
360度、見渡す限り同じような景色が広がっている。
まるで海の真ん中に取り残された船からの景色のようだった。
水のかわりに砂の海だけど。
一刀「えーと……」
いきなり見ず知らずの場所で目を覚ましたとは思えないほど、冷静だった。
それもそのはず。
一刀「まぁ、2回目だしな」
そう、最初に華琳たちの世界に来たときと同じような状況だったからだ。
さすがに2回目ともなるとあまり驚かない。
そして、状況への順応も早い。
一刀「とりあえず、直前の状況を思い出すか。たしか俺は華琳と別れて――」
気がついたらここにいた。
一刀「……あれ?」
その間の記憶がまったくない。
寝たと思ったら一瞬で朝でした、みたいな感覚だ。
華琳に別れを告げる同時に、意識が遠くなっていった感覚は覚えている。
ただ、その後の記憶がない。
なんとなく、俺が本来暮らしていた世界に戻るのかと思っていたんだけど……。
一刀「明らかにここは日本じゃないしなー」
再度、辺りの様子を確認する。
おそらくまた三国志の世界で間違いないと思う。
根拠はまったくないが、なんとなく肌に感じる空気が同じだ。
一刀「……まさか時代が違うとかじゃないよな」
何気なくそんな可能性が口をついて出たが、否定はできない。
一刀「……」
まあ、いいか。
一刀「これ以上考えてもしかたないよな。とりあえず、何処かの街に行かないとどうにもならないだろうし」
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