10.兄と弟

14/48
78930人が本棚に入れています
本棚に追加
/522ページ
過去の発言を振り返ることもできないため、最初の桜田の質問に答える。 「まあ、弟なら一人居るよ」 「弟って……確か、金魚すくいが苦手な?」 自信なさそうに口を開いたのは葛西だ。 何で……と考えて、しかしすぐに思い当たった。 「ああ、そっか。夏祭りの時に話したんだっけ」 葛西と二人で屋台を回っていた時、たまたま目に入った金魚すくいから思い出したことを、彼女にだけ話した覚えがある。 それにしても、よく覚えてたな。あれから色々あったのに。 密かに感心するオレに、当の葛西は花のように可憐に微笑んで、 「あの時の神崎君、本当に懐かしそうで嬉しそうだったから。よく覚えてる」 「……」 ちょっと背中がむず痒い。 「まあ、アレだ。家族を大切にするのは大事だよ、うん」 「今時なかなか居ないもんね、そういう男の子」 慎士と桜田が、妙に温かい目で何度も頷いている。何かムカつく光景だが、ここは見なかったことにしよう。 それより気になったのは、ユーリの反応だ。 「……」 どことなく沈んだ面持ちで、オレたちの後方を歩いている。
/522ページ

最初のコメントを投稿しよう!