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過去の発言を振り返ることもできないため、最初の桜田の質問に答える。
「まあ、弟なら一人居るよ」
「弟って……確か、金魚すくいが苦手な?」
自信なさそうに口を開いたのは葛西だ。
何で……と考えて、しかしすぐに思い当たった。
「ああ、そっか。夏祭りの時に話したんだっけ」
葛西と二人で屋台を回っていた時、たまたま目に入った金魚すくいから思い出したことを、彼女にだけ話した覚えがある。
それにしても、よく覚えてたな。あれから色々あったのに。
密かに感心するオレに、当の葛西は花のように可憐に微笑んで、
「あの時の神崎君、本当に懐かしそうで嬉しそうだったから。よく覚えてる」
「……」
ちょっと背中がむず痒い。
「まあ、アレだ。家族を大切にするのは大事だよ、うん」
「今時なかなか居ないもんね、そういう男の子」
慎士と桜田が、妙に温かい目で何度も頷いている。何かムカつく光景だが、ここは見なかったことにしよう。
それより気になったのは、ユーリの反応だ。
「……」
どことなく沈んだ面持ちで、オレたちの後方を歩いている。
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