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それでも、やっぱり。
オレは黙っていることができなかった。
「昔のあんたがどうかは知らないけど……今のあんたが弱いのは当然だろ」
浅くため息を吐き、倒れた男へ言の葉を落とす。
「オレは現在(いま)を生きてる。立派じゃなくても、人並みに踏ん張れてるくらいの自信はある。
過去にすがって立とうとしないヤツには、負けねぇし負けられねぇよ」
「……」
シグマは反論も反応もしない。
目に悲しげな灯を抱え、抜けるように青い空を眺めたまま、呆然としている。
再度ため息をつき、腰を折って右手を差し出した。
「まずは立て」
この言葉を聞き、シグマは目を見開いて、オレの顔を凝視する。
それがあんまり滑稽で、親しみに溢れていて……ようやく彼の心に触れられた気がして、嬉しくて。
オレは思わず、満面に笑みを浮かべてしまった。
「何事も、それからだろ?」
オレの表情から、シグマが何を読み取ったかは分からない。
が、彼の眼光が一瞬だけ和らいだのは、決して見間違いじゃないだろう。
数秒の間を挟んで、まだ爪を備えたままの右手を、ゆっくりと伸ばしてきた。
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