78965人が本棚に入れています
本棚に追加
────
まったく突然、その男は目を覚ました。
「……」
どこともしれない白い天井と、自身を取り巻く機器を、ぼんやりと見つめる。
壮絶な咆哮に叩き起こされたような、不快にして奇妙な感覚を抱く彼は、感じていた。
自分たちのリーダーを務めていた男が、その人生に幕を下ろしたことを。
根拠も何もないというのに、何故か分かるのだ。
「……」
すぐにでも彼の元へ行きたかったが、手も足も動いてくれない。
体がベッドに固定されている以上に、全身に大きなダメージが残っていることが原因だった。
「……」
一筋。
臙脂色の瞳の端から、細い水の道が生まれる。
『行く宛もないなら、私と共に生きてはみないか?』
そう言って、手を差しのべてくれた男。
無二の友人であり、かけがえのない仲間であり……広い世界へ連れ出してくれた恩人。
彼の顔を思い浮かべ、
「……さらば」
声とも呼べない小声で呟いた男は、そのまま目を閉じた。
まるで恩人の後を追って死の世界へ堕ちるように、深い眠りへ沈んでいく。
────
最初のコメントを投稿しよう!