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冬の日没は、早い。
暖かな光を放っていた太陽が、いつの間にか傾き、なだらかな山の斜面に半ば隠れている。
「……」
微風に毛先を踊らせるオレは、市街地から半歩外れた、桜峰市立病院の屋上に立ち尽くしていた。
高いフェンスの向こうに、刺すような日差しを浴びて、鮮やかな橙に燃える街が見える。
混乱はほとんど収束したらしく、数時間前まで煙が上がっていた場所も、今は静かだ。
「……」
あの後。
制服を繕ってもらったオレは、他の生徒たちも避難しているここへ、慎士たちと一緒にやって来た。
「登校中に暴動が起きてしまったようでね。校外の人目につかない場所に隠れていたところを、発見して連れて来た」
という理事長の口添えのおかげで、特に騒ぎにはならなかった。
避難しなかったり、勝手に病院を抜け出したりした慎士たち七人も、
「もう十分叱ったよ。彼らも疲れているし、今回は大目に見てやってくれないかい?」
と、理事長が生活指導の先生に頼んだため、厳しい注意を受けることはなかった。
学園における彼女の権力や人望を、改めて認識した次第である。
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