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「欠片の使徒の精製…です、か」
そう言うと助手は、記録を持っていた資料と一緒に両手に抱いて、辛そうに目を伏せる。
私は、腰かけていた椅子から立ち上がり、労わるように彼女の肩に手を置いた。
「…すまない、フィオーネ。お前にこんな辛い思いをさせるつもりじゃ無かった」
フィオーネ…私が彼女を見つけたのは数年前。
誰も為しえることの出来なかった欠片の使徒の精製と、その方法を探る為、ハイネ=ヒースガルドの記録を元に辿り着いた、欠片の使徒の原点。
発見当時の彼女の姿は人間とはとても思えず、私が形成治療を施さなければ、女性ということすらも分からなかった。
…正直、フィオーネを見つけた時点で、私の次元の使徒に関する研究は完成したと言っても良かった。
フィオーネを解剖すれば、次元の欠片のことも、『使徒』のことも全てが明らかになる。
……だが、出来なかった。
世間ではしばしば次元の使徒のことを、『化物』、『ハイネの亡霊』と言われることがある。
この研究に従事する私もそのその世間の中の一人だ。
しかし…今、目の前にいる彼女は、とても化物なんていうものには見えなかった。
無理だった。私には、『人間』を殺すことなどできなかった。
多くの人を殺し、欠片の使徒を作り上げようとした、ハイネの神経が理解できなかった。
フィオーネは、肩に置かれた私の手にそっと自分の手を重ねる。
「いえ…むしろ私はハイネ様に感謝しています。瀕死の私に、命を吹き込んでくださったのですから…」
「…そうか」
私は彼女の肩から手を外し、代わりに逆の手に持っていた書類をフィオーネに手渡す。
「…なぁ、フィオーネ」
彼女が書類に目を通すより先に、私は訊いた。
「私は…彼の、ハイネの願いを叶えるべきなのか?」
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