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まぁ、あるクチの悪い捜査員からは、『ナンチャッテ(キャリア)』等と呼ばれているくらいなのだから……。
綾乃の返答に真里亜は言葉にして返事はしなかった。否、というか返事をする前に綾乃の目の前の内線電話が己れの存在意義を主張し始めたのだ。
《四月中旬・徳島公園・夜》
「所長、早くこっちに来るネ。」
そろそろ見頃も終わりの近づいた桜の木の下で後を振り返りながら、少女が連れの男性の方に手を振ってみせた。
「あのなぁ。一応、はっきりさせておくが、俺はお前の身元引き受け人で、ついでに大家でもあるが、お前から仕事の依頼を受けた覚えはないぞ?その俺が、何で夜の徳島公園にまで付き合う必要があるんだ?それでなくても俺は忙しいんだぞ。」
男性が少々不機嫌な様子て゛少女に聞いた。
「日本では、日がな1日パチンコ台の前に座っている事を仕事、言うのカ?それとも夜な夜な、秋田町辺りをうろついて、酒に酔っ払う事の方が仕事なのカ?」
少女…鳳麗華(フォウ・レイファ)は被っていたキャップを指先でクルクル回しながら、瞳を街灯に煌めかせて少し意地悪く笑ってみせた。多分、いつもより多く回っているに違いない。
「アレは趣味と実益を兼ねた……って、大体、俺の本業は『探偵業』なんだから、街の裏の情報を知る為にも夜の街に、だな……?おい、麗華、聞いているのか?」
自称、探偵(本業、パチプロ?)の『飛鷹将(ヒダカ・ショウ)』は少々言い訳じみた台詞を口にした。
確かに、将は徳島市内に『飛鷹探偵事務所』という探偵事務所を開いてはいたのだが、所員は所長の将が一人いるだけ。
事務所自体も過去、現在とも(多分、未来も)に開店休業状態という、極めてお寒い状況に陥っていたのだ。…もっとも、パチンコの腕だけで、将と居候の麗華が食べていくには十分なだけの金額を稼いでいるのだから大したものではあるが……
「おかしいネ。妙な『力』の流れを感じるアル。」
しかし、残念ながら(?)麗華は将の言い訳じみた台詞を一切、聞いてはいなかった。
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