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「コーヒー、飲むんでしょう?」
とか何とか言いながら、コーヒー豆を挽き始める法子。
多分、自分がコーヒーを飲みたかったのだろうが、流石に一人で飲むのは味気ないので、誰かが戻ってくるのを待ち構えていたのであろう。
「あぁ、泥水のような奴じゃなくて、ちゃんとした奴ならな。」
等が軽口で受けた。
別に本心からそう思った訳ではない。ただ、まぁ、なんと言うか…素直に返事をするよりは、その方が『らしい』と、思っただけなのだ。
「悪かったわね。どうせ私はコーヒーを淹れるのが下手ですよ~~だ。そんなに言うんだったら、自分で淹れたらいいじゃない。」
コーヒーを淹れる準備の手を止めずに法子も答えた。当然、法子も本気で怒っている訳ではない。
その受け答えが、自分に相応しい、と思っているだけなのだから…
「さてと……。後は明日かな。」
等が、法子の淹れたコーヒー(いつも通り、角砂糖を一個入れるのみ)を一口飲ってから、軽く伸びをした。
コーヒーには、この街の1日の終わりを告げるに相応しい色が浮かんでいる。…そう、1999年にノストラダムスの『大予言』が『大懺悔』へと変わった後の、この徳島の状況に相応しい色彩が……
…しかし、
「ざ~んねんでした。まだ、明日は来ないみたいですね、ヒ・ト・シさん。」
法子が、少し意地の悪い笑みを浮かべて、そう言った。
…そう、等がもう一口飲ろうとした瞬間、来客を告げるチャイムが鳴ったのだった。
《四月下旬・城の内高校・朝のHR》
「え~と、まず転校生の紹介から始めるのが筋だな。」
予鈴が鳴ったばかりで、まだ少し騒々しい教室内で、101HR担任、甲斐 正広(カイ・マサヒロ)がいつも通り、スチャラカな口調で話し始める。当然、というか、担任の傍らには一人の女生徒が立っていた。
まず、この担任、日本史担当の教師なのだが、徳島で1、2を争う進学校の教師としては少々問題がある教師で
「試験で得点のとれる勉強方法の教え方なんて他の優秀な先生方にでも聞いてくれ。俺には残念ながら、そんな器用な勉強方を教える事は出来ないのでな。」
と言い放って、自分のやりたい様に授業を行っている教師なのだ。
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