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担任がそう聞いた瞬間、朝のHRの終了を告げるチャイムが全校に響く。
そして…
「まぁ、という訳だから、後の事は宜しく頼む。あっ、ヒルデの席は一番後の空いている席にしておいてくれ。それじゃあ朝のHRはこれにて、終了。」
そう言うなり、ヒルデ、瑞希の返事はおろか、舞衣の返事さえ待たずに、さっさと(脱兎のごとく)教室から出て行ってしまった。
まぁ、判らなくはないが……
「先生、何を慌てて出て行ったんでしょうかねぇ。」
《四月初旬・一宮町・午前》
徳島市……とはいっても、かなり外れの方にあたる一宮町。その町中を流れる鮎喰川からまっすぐ伸びたかのような古い石段を上がった先に『それ』は存在していた。
石造りの古い鳥居を抜けると、正面には三本の杉の木を背にした本殿が建ち、その横には、もう一つ宮があり、そこから少し離れて社務所が建っていた。そしておそらくは、神主もここに住み込んでいるのであろう。社務所の後には、神主一家の家屋らしき建物が繋がっていた。
そして、多分、ここはそれ程有名な神社ではないのだろう。平日の昼間という事を差し引いたとしても辺りには参拝者の姿は無く、また賽銭箱なども余り使われた形跡はなかった。
実際、すぐ近くに四国八十八ヵ所の札所が存在する為に、この神社は地元の住人でさえ知らない者も少なくはなかったのだ。
但し、『それ』の存在を知っているモノが、その日、この神社を訪れたのだが……
《同日・一宮町・追魔が時》
「課長代理、やはりこれは……」
周囲は金臭い、むせ返るような異様な臭気に包まれていた。
「あぁ。これは人間の仕業ではないな。」
木村綾乃の確認のような問い掛けに宗山俵衛はそう答えた。二人のいる室内は、当然と言うべきなのだろうが、金臭い臭気の元によって、一面に…
そう、天井や壁にさえも赤黒く彩色が施され、畳に至っては大量の赤い液体に濡れてぐっしょりと沈んでいた。
「課長補佐。これを」
来須真理亜がハンカチに付いた極微量の淡い緑色の光を発するゼリー状の物質を指し示した。
……これは
「多分、生体マグネタイとだな。」
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