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「その前にもう一つ、気になる点があるんですが……」
俵衛の言葉を遮って、綾乃がさらに報告の続きを始めた。
「神木や清めの井戸。それに本殿などに関して、一切、破壊された形跡はないのですが、ただ境内にある祠が、完全に破壊され尽くしているんです。この様な事件の形態は今までの例から言うと…」
「何者かの封印を解こうとしている存在がいる可能性が高い、という事かね?」
俵衛の質問に言葉を選ぶように、慎重に答える綾乃。
「もしかすると、祠に封印されていた何者かが、封印を破って飛び出した可能性もありますから、現状では何とも言いかねます。が、しかし、可能性は高いと思います。」
綾乃の返答に大きく首肯く俵衛。そして…、
「さて、私は一課の捜査主任の方に今後の対応を相談して来るか。色々と協力を仰ぐ必要があるだろうからな。」
そう言ってから俵衛は、先程呼び止めた捜査一課の若手と共に、ある方向へ向け歩き始めた。その視線の先には、顔馴染みの捜査一課の課長補佐の姿があったのだ。
「何か良くない事が起こりつつある。……そんな気がするんです。何か、とても危険な事が、この徳島で……」
立ち去る俵衛の後ろ姿を見つめながら、綾乃はポツリと、そう洩らした。
元々、少しペシミステック(悲観論者)な彼女なので、別段、不思議でもないのだが…、否、もしかすると優秀な『幻視能力者』としての能力が、そう言わせているのかも知れないが……
「…かと言って、このまま何もしない訳にはいかない。」
真理亜が綾乃の独り言に、そう答えた。
「何か危険な事を起こそうとしている存在がいて、それを私に止める『能力』があるなら、私は躊躇なくそれを行う」
そして、
「それが私の仕事だからな。」
そう真理亜が言い切った。
…何を思う、来須真理亜よ。
《四月中旬・徳島公園・夜》
「この辺りだった様な気がしたアルが…」
鳳 麗華は、元、徳島城のお堀り端に到着していた。確か、この辺りで何かが『跳ねた』ような気がしたのだ。当然、鯉や鮒などの魚が跳ねたのではない。何か別種の…『威力』が『跳ねた』ような気がしたのだ。
ゆっくりと、慎重にお堀りに架けられた橋の方に近づいて行く。
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