16人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、麗華!お前、武器か何か持ってないのか!?」
大蛇との間に一定の距離を置き尋ねる将。
麗華の返答は首を横に振るだけだった。
まさか、こんな魔獣に出会う等と思っていなかった為、武器の類いは持って来てはいなかったのだ。まぁ、確かに嵩張らない『霊活符』等の呪符は数枚あるが、そんな物でどうにか出来る相手とも
思えない。
まして、取って置きの『五行符』は残念ながら一枚きり。
「そうか、なら仕方ない。麗華、俺の最大の必殺技を見せてやるぜ。」
将が不敵な笑みを片方の眉に浮かべた。そして、徐々に…本当に少しづつ、大蛇との距離を開きながら続ける。
「俺が合図したら、ありったけの『式神符』をばらまけ。そして…」
麗華が首肯く。
ちなみに麗華の使う式神では、残念ながら大した能力は持っていない。せいぜいが雑事をどうにか一つ、それも一般人がこなせる程度に行う事が出来るだけであって、こんな危険な場面では、大して役に立つ物でもなかった。
「ばら撒いたら、後も見ずに走り抜けろ!」
そう言うが早いか、将は大蛇の居る方向とは逆の方向に走り出す。当然、麗華も式神符をばら撒くと同時に走り出した。
…その数秒後、麗華はばら撒いたすべての式神が消滅する冷たい感覚を感じたのだった。
《四月中旬・麻生探偵事務所》
「は~い、今、行きます。」
そうインターフォンに香取法子が告げ、部屋を出て行ってからしばし後、法子と、法子に案内された高校生らしき女の子が事務所のドアの前に立っていた。
スレンダーな体型。法子と比べると10㎝程長身であろうか?髪……ショートボブの髪の毛は、ちゃんと毛先にまで手入れが行き届いているようである。そして、一番印象的なのは、その瞳であった。黒目勝ちな瞳には意志の強そうな光が宿っていた。
「あ、え~と、ウチに─」
「こちらが麻生探偵事務所ですよね?」
等の言葉を遮るかのように、少女は口を開いた。
質問の形を取ってはいるが、その口調に躊躇いの色はない。むしろ、断定する、という感じの口調であった。
最初のコメントを投稿しよう!