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「あ、あぁ、そうだが……」
等の答えは、思わず自信のない声になっていた。
別に屋号を聞かれただけなのだから、そんなに緊張する必要もなかったのだろうが……多分、…否、今までの情報だけで判断するのは早計だろう。
「依頼したい事件があって来ました。」
少女は等の心を見透かしたように見つめてから、一語一語、はっきりと発音するかのように話し出した。
「あぁ、仕事の依頼か。…まぁ立ち話も何だから、取り敢えず、座ってくれないだろうか?話しづらくって仕方ないんだが……」
等がソファーへの着席を促すと、少女は
「依頼を受けてくれるんですか?」
と、初めて疑問符のついた質問を行った。最も、ソファーに座る素振りは見せなかったが。
おそらく、「受けない」と言われると、そのまま回れ右をして、さっさと別の方法を考えるつもりなのだろう。
「まず、話しを聞いてからだな。」
そう言って等は身振りだけで再度、椅子を勧めた。しばらく考えた後、少女は、ゆっくりと、しかし、浅くソファーに腰を下ろす。そして、その動作を待っていたかのようなタイミングで法子が、少女の前にコーヒーとミルク、そして砂糖を出した。
「まず、ドコからウチの噂を聞いたんだ?」
大体、探偵事務所の看板さえあげていないのだ。
その上、広告、営業活動の類いは一切行っていない。所長がものぐさなのと、口コミのみで、十分、依頼人が集まって来るのだが、これで良く商売が成り立つモノだと、普段から等は感心しているぐらいなのだ。
「人から教えてもらいました。確か、徳島県警の『屁理屈さん』とか言う刑事さんに。」
《翌日・麻生探偵事務所》
「…で、何かい。人捜しかいな?」
少女、葛城 亜衣(カツラギ・アイ)の記入した『調査票』を指で弾きながら、中川大輔が言った。
「人捜しじゃ、いけないんですか」
その大輔の仕草が気に障ったのか、(本当に珍しく)法子が、少し不満気に聞き返した。
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