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六度目の春が来た。
装束の色が変わり、みんなの雰囲気が変わった。
そんな時、大好きな彼の前で初めて泣いた。
俺は入学してから、食満留三郎と言う男と出会った。
彼は1年は組の生徒で、昔から明るく優しかった。1年生だけの初めての実習の時、2人で組んだ。
ただ、それだけが話すきっかけになった。それから何度も会話をするようになり、小平太、長次、いさっくんたちとも会話するようになっていた。
それから、数回ほど彼が困っている顔をしていたのを見た。彼の困った顔が可愛くて、困らせてみたいと思うようになった。
最初はただの遊び心だったけど、2、3年ぐらいになってようやく気付いた。
『この感情は恋なんだ』
と。
でも、俺にはそれだけだった。素直に好き、なんて言えない。抱き着く事だって遊びでしか出来ない。
俺が女だったら良かったのに。女顔って言われるけど、女なんかじゃない。
女になったら彼に見てもらえるだろうか?
女になったら彼に好きになってもらえるだろうか?
女になったら彼に抱きしめてもらえるだろうか?
そんな事ばかり考えてたら涙が溢れてきた。その涙はいくら拭っても拭っても止まらない。深緑の装束を濡らしていた。じゃり、と土を踏む音が聞こえて涙に濡れた顔を上げた。
「と、め…」
大好きな彼の姿が目の前にあった。
「何でこんなところで泣いてんだよ。」
座り込んでいた俺の前にしゃがんで頭をそっと撫でてくれた。
「何でも、ない…」
泣き顔を見られたくなくて膝を抱えて泣いていた。
すると、肩を掴まれてそのまま抱き締められた。
「な、んで…」
「滅多に泣かないお前が泣くとことか俺は見たくねぇんだよ。いつもみたいに俺の邪魔しに来い。」
抱き締められるとなんだか落ち着いた。
このまま好きだと伝えたらこの関係は崩れるだろう…、そう思って大人しくぎゅうっと彼に抱きついた。
卒業したら、彼に好きだと告げよう。卒業したらもう会えないかもしれない…けど、伝える事に意味があるんだ。
いつも通りに戻るまで俺を抱き締めていて。そんな短時間、留とくっついていられるだけで幸せだから。
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