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虹の玉、といわれても、悠馬の脳内には物質的なものしか浮かんでこなかった。
「ううん。そういうんじゃなくて・・・、なんて言うのかな。私はそういう物理っぽいこと苦手だからさ。ほら、高校の時も全然理解できなくてさ。私、補習に引っかかってばかりだったじゃない?ゆう君は頭よかったし、選択も物理取っていたからそういう屈折とか分散とかスペクトルとかよくわかるでしょ。」
懐かしい記憶だった。
彼女とであったときからの記憶が残っている高校時代の生活。それが美しい記憶として少しずつ蘇ってきた。
「ずいぶん懐かしいことだな。まぁ、でも、一応は覚えてるよ。やっていて楽しかったし。色彩が光によって変わるってとこが好きだったなぁ。ってか、お前も取ってたろ、物理学。少しは覚えてる、だろ?」
「いやいや・・・、私は理系に疎くて疎くて・・・。」
おどけて笑う彼女。
文系の彼女にとって、理系に力を入れていた悠馬らの高校の選択教科、特に物理学は相当苦痛なものだったと思う。
それは悠馬にとって、いつ聞いても忘れてしまうほど理解できないようで悩める疑問であったが、話すたびに思い出す。
「じゃぁ何であんな面倒な授業取ってたのさ。」
「そりゃぁさ・・・。わからないの―――?」
それは楽しい記憶だ。二人の今になってみれば笑いあえる最高の記憶。
「わかんないわけ、ねぇじゃん・・・。じゃなきゃもう一教科の選択教科、音楽なんて絶対に取らねぇ・・・。」
「ふふっ、正直で結構。やっぱりゆう君はゆう君だな」
彼女は微笑んだ。
恥ずかしい空気―――。
ずっとこんな時間が続けばいいのにと、彼女から伝わる体温を感じながら悠馬はそんなことを思った。
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