香の匂い

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時は 文久三年(1863年) 皐月 見廻りと称して 芹沢率いる壬生浪士組の一員として舟涼みに出たはずだ そして 不覚にも 舟酔いし運び込まれた…までは憶えている そして 今に至る 何故に 縛られ 目隠しをされているのか… 軽く 手足の縛りが緩まないかと身体をうごかしてみるが 解けてはくれない (さて…どうするべきか) 俺が考えに耽っていると 襖を開けるような音がした 気付いているのを気付かれないように息を潜めた 襖を閉める音から 察するに 入って来たのは 女人 1人と思われる その人物は 俺のすぐそばまで来ている そして 凛とした女の声でしっかり俺の名を呼んだ 『山口… いぇ 斎藤さん』 俺は微かだが動揺した 斎藤一 として 壬生浪士組に入隊したが それまでは 山口一と名乗っていた それは 俺の身元が割れているという 確固たる証拠 一瞬だっただろうが 俺は身を硬くしたのだろう 女は小さく笑った 俺の耳から 喧騒が消え ドクドクと心臓が脈打つ音だけが聞こえた 平静を装いつつ 俺は問うた 『お主は何者だ』と…
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