第一話「不思議な転校生」

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「そうなんだ。そこで、涼の腕を見込んでお願い!!」 和人は手の平を合わせて頭を下げた。 「こんなもん…腕とかそういう以前の問題だろ」 涼はは複雑な表情を浮かべてMDプレイヤーの本体を指先でつまむように持ち上げた。 誰がどう見ても直すなんて不可能だろう。 「無理??」 和人は持ち前のかわいらしい顔を活かして、まるで子供が哀願するような顔で涼に迫った。 完敗だ。 涼はやり場のない悔しさに頭を掻きむしった。 「だぁーっ!! わかったわかった!! 直せばいいんだろ、直せば。ここで待ってろ」 そう言うと、もはやがらくたと化しているMDプレイヤーを持って教室を出た。 ーートイレでいいだろう。 洋式の便座の上にそれを置くと、誰も来ないことを確認して鍵を静かにかける。 「ったく、この力も上手く利用されてんなぁ……」 もしかすると、和人が仲良くする理由はここにあるのかもしれない。 涼はぶつぶつ言いながら静かにMDプレイヤーの上に右手をかざした。 「元通りになればいいんだ……ろ!!」 言葉の語尾が力んだと同時に右手の手の平からまばゆい閃光がほとばしった。 テレビは部屋を明るくして離れて見てね、という文句を軽く覆すような光だ。 たぶんいくら部屋が明るくても気分を害する子供は何人も出てきそうである。 光がおさまり、トイレは徐々に元の薄暗さを取り戻していた。 MDプレイヤーはというと…… 完全にもと通り、というか新品同様だ。 そう、もう察しはついていると思うが、涼は不思議な力を持っている。 それは一般的には“魔法”と呼ばれている、誰でも一度は憧れを抱くものだ。 魔法は普通、魔法陣をかき、それを利用して唱えるものである。 しかし、涼の場合は魔法陣無しで魔法を成立させてしまうのだ。 その際に必要なことは呪文の名前を唱えるだけ。 名前をいうことぐらい幼稚園児にでも可能だ。
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