第一話「不思議な転校生」

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「こんなもんでいいだろう」 涼はMDプレイヤーをポケットに捩込むと、トイレを出て和人のもとに歩み寄っていく。 「ほらよ」 ポケットから取り出したMDプレイヤーを受け取った和人は目を丸くしてMDプレイヤーと涼を交互にみた。 「も、もう直ったの??」 「それでいいんだろ?」 「あ、ありがとう……」 涼は面倒臭そうに息をはくと、机に俯せて睡眠をとりはじめた。 昼休みをむかえた。 涼は昼ご飯を食べ終え、一人孤独に教室の自分の机に伏せて昼寝をしていた。 彼は本を読んだりなどというまどろっこしい事はしない。 それなら寝るというのが彼の信条だ。 それとは全く対照的に優奈の方は蟻に群がられているように生徒に囲まれている。 「あれ?涼はまた昼寝?」 涼の耳元で脳天気な和人の声が響く。 不機嫌な表情を浮かべながら顔をあげると、そこには憎らしいほどににこにこしている和人の顔があった。 「お前はいつもいつも何が楽しくて俺の安眠を妨害するんだ?」 「授業中いつも寝てるから眠たくないでしょ?」 「う…………」 痛いところをつかれた。 何も言い返せず、言葉を詰まらせた。 目のやり場に困ったのか、ちらっと先程から人気のあの場所に目をやった。 「……やけにあの転校生人気があるな」 「なんでも“タロット占い”ができるらしいよ、彼女」 「タロット占い??」 涼は確認するように和人に言うと、鼻で笑った。 「なるほど。占いをして他人の気をひこうって寸法だな。占いなんか嘘の塊だぜ。お前は信じるなよ、和……」 涼が優奈を馬鹿にするようなそう言ったときだった。 一枚のカードが風を切る音と共に涼の耳元を通過していったのだ。 そのカードは綺麗な弧を描いて持ち主の手元にかえっていった。 投げてきたのはどうやら優奈のようだ。
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