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「ごめんね、驚かすつもりはなかったんだけど、ちょっとタイミングが悪かったみたいね」
声の主はクスッと微笑する。
涼は全然笑えない。
今はこの笑みさえ恐怖に感じるというのに。
正体を確認したいが首が思うように回らない。
動こうとすれば、全身に電気が走るような
そんな感覚に襲われる。
「あなたは選ばれた人間なの。死神によってね」
死神?
何の事?
僕は死ぬの?
涼の頭の中ははいっぱいになった。
心臓が激しく脈をうつ。
張り裂けそうだ。
「だからね、今からあなたに試練を与えるわ」
声の主の口調が一瞬真面目なものに変わった。
諭すような、そんな声色である。
声の主は今度は何か企みがあるかのようにクスッと微笑すると
「頑張ってね」
と耳元で小さく言った。
すると、何故か視界が急に真っ暗になってしまった。
何も見えない、漆黒の闇に誘われたのだ。
涼は目を開けるとゆっくり上体を起こす。
目をこすって辺りを何度も見渡す。
そこはもう自分の部屋ではなかった。
時空が歪んだような空間に独り存在していることに気付く。
「こ、ここは……」
キョロキョロと辺りを見回してみるが、物一つ見当たらず、自分は宙に浮いているのではないかと錯覚を起こしてしまいそうである。
体は地面についているが、目ではその地面を確認できない。
要するに、周りの空間と地面が一体化しているのだ。
「ククク……お目覚めのようだな」
何もなかった空間から不意に不気味な声が聞こえてきた。
再度見回してみるが、声の主の姿は見当たらない。
「だ、誰だ!」
涼は声を振り絞った。
「おまえの真上だ、相馬涼」
声の主は小さくクククと笑っている。
恐る恐る顔を上げてみる。
その距離五センチといったところか。
そこには黒いマントを全身にまとい、等身大はあろう大きなカマを持って涼を直視している死神の 姿があった。
死神は空中を逆さにぶら下がり、顔と顔が触れてしまいそうだ。
「うわぁっ!?」
涼は思わずしりもちをつく。
「な、何だお前は!」
「ククク…腰を抜かしている割には勇ましいものだな。お前のその精悍な目付きも選んだ理由の一つなんだがな」
死神をキッと睨む涼の目は恐怖心の前に怯んでしまう。
「ど、どういうつもりだよ! こんなところに連れて来て!」
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