262人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
涼はガクガクと震える膝を必死におさえつけながらその場に立ち上がる。
「ククク……お前に今から試練を受けてもらう。これを乗り越えられれば……
君は強くなれる」
まさに悪魔の囁きだ。
今の涼にとってその言葉はどんな誘い文句よりも強大な力を持っていた。
なぜなら……
「試練? 俺はそんなものに興味なんかない!」
涼は語気荒く言い捨てるように言った。
「興味がない?」
死神は一瞬表情を強張らせたかと思うと、突然哄笑した。
「な、何がおかしいんだよ!」
「興味がないのは嘘だろう」
「ど、どうしてそんな事が言えるんだよ」
涼がそういったのを聞くと、死神はゆっくりと語り始めた。
「お前は元々喧嘩が強く、他校の生徒から友人を守ったことで一躍学校のヒーローになった……。しかし、今、お前よりも強い奴が転校して来ただろう? 彼の名は櫻井恭介。ボクシングをやっていて小学生にして中学生を倒してしまうほどの実力の持ち主だ。君は日頃数人の生徒から目の敵にされていた。“ヒーロー気取って女子に一人ちやほやされているのが許せない”と数人の生徒は櫻井に告げ口をした。その日から君は暴行を毎日のように受けている。違うか?」
「な、何でそれを……」あまりに的確な内容に涼は愕然とした。
「ククク……全てお見通しだ。さぁ本当の事を言ってみろ」
死神は涼の横に降り立ち、耳元でそう囁いた。
死神の白い骨の手が涼の頬をゆっくりなぞる。
涼の体が意思とは無関係に震え始めた。
頬から一滴の雫が空間に落ちたとき、決心したように小さな拳がぎゅっと握られた。
「つ……強く……強くなりたい……。強くなりたい! 騙されていると分かってても強くなりたい!」
意思の固まった瞳は真っ直ぐに死神をとらえている。
揺らぐことないその眼は死神のどこか奥底の気持ちを高ぶらせた。
「ククク……決まったな。では試練を与える」
死神は身を翻して涼の目の前に降り立つと、背負っていた鎌をすっとを差し出した。
最初のコメントを投稿しよう!