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「これを持って思いっきり振れ」
「こ、これを? そんな簡単な事で……」
「ククク……勘違いするなよ。このカマは持つ人間を選ぶのだ。だからもしお前がその力を手に入れるのに相応しくない人間なら、持つと同時にお前をズタズタに斬り刻む。しかし、もしお前が相応しい人間なら、そのカマはただのカマとなり、従順に操ることができる。さぁ選ぶがいい、手に入れるか、入れないかをな。ククク……」
涼は戸惑いの表情を浮かべた。
ゴクリとつばを飲み込む。
カマに手を伸ばすが、あと一歩のところで掴む勇気がでない。
「ククク……どうした……早く掴め、掴むのだ!」
涼は死神のこの言葉に覚悟を決め、目をぎゅっとつぶった。
ーーどうにでもなれ!
「うわああああああーー!」
涼は絶叫するとカマをガッとつかみ取って、力いっぱいそれを振るった。
風を切る鈍い音が歪んだ空間で残響する。
「はぁ……はぁ……はぁ」
涼の手からカマが零れるように落ちた。
カランカランと金属音が辺りに響き渡る。
涼は荒々しい呼吸をしながらその場に力無く座り込むと、自分の体がちゃんとあることを手で触れて確かめた。
「ククク……やはりお前は選ばれた人間だったようだな。約束通り力を授けよう」
死神はそう言うと念力でカマを手元にたぐりよせ、それを大きく振りかぶって涼を斬り付けた。
斬りつけられた時の不気味な死神の笑みが脳裏に焼き付いたまま、目の前は再び真っ暗な世界に包み込まれていった。
「う……うーん……」
カーテンからもれてくる白い光に起こされる。
ゆっくりと体を起こして辺りを寝ぼけ眼で見回してみる。
紛れも無く自分の部屋だった。
「夢……か。それにしても怖い夢だったな……」
涼は昨夜、ホラー映画を見たことをひどく反省した。
自分の掌を見てみるが、以前となんら変わりはない。
ただ、手には汗が滴るほど握られていた。
体の方は、最後に斬りつけられた時にできたはずの傷もできていない。
涼はため息をつくと学校に行く支度をし始めた。
涼は気付いていなかったのだろう。
起きたとき、自分が布団をかぶっていなかったという事に。
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