262人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
突然優奈が悲鳴のような声をあげた。
「どうした…って何したんだよお前!!」
涼も思わず声をあげた。
無理もない。
目の前からピアノが消えてしまっていたのだから。
「ま、間違えてカード使っちゃったみたい…。」
「間違えたって…あんなに慣れた手つきでカード出してたのにかよ。…流石にピアノなんかだせねぇぞ、俺。」
涼は呆れて溜め息をつく。
「どうしよう…」
「じゃあ…今のはなかった事にして早くここから離れるぞ。こんな事見つかったら大変な事になる。」
「大変な事って?」
優奈の表情が少し強張る。
「あのピアノはずっと昔からあったピアノらしいんだ。伝統をそのまま残しておこうって事で少し壊れてもあのままにしてあったんだ。」
「え、う、嘘!?」
優奈はハッと口に手をあてる。
「とにかくそういうことだ。ここにいたらまずい、教室に戻るぞ!!」
涼はそう言うと壇上を軽く飛び降りて体育館の出口に走り始めた。
だが、そのあとを優奈は一向に追いかけてこようとしない。
涼はたまらず立ち止まって振り向くと、
「何してんだ、早く来い!!ぐずぐずしてても一緒だろ!!」
と、少し怒鳴り声で言った。
それでも優奈は変わらず俯いたまま何かを言うどころか動きすらしない。
「バレたらまずいんだ!!後で悔やめ!!」
涼はそう言いながら自分の前にワープホールを築く。
「私…もう魔力が残ってないからスルーランが使えないの…。」
優奈は壇上に力無く座り込んでしまった。
見兼ねた涼はワープホールを閉じて小さく舌打ちをすると、優奈に駆け寄って行き、彼女の腕をがっと掴んだ。
「俺はバレても構わない。だけどお前は転校してきたばかりだ。こんなところで学校生活終わらしちゃダメなんだよ!!」
涼の言葉に優奈はコクりと小さく頷くと、指先で涙を拭ってゆっくりと立ち上がった。
「よし、いくぞ。」
最初のコメントを投稿しよう!