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放課後ー。
涼と優奈は昨日の時のように二人だけで教室に残っていた。
ただ、今日は雰囲気が違う。
「ごめんね…。私のせいで…。」
「こんな傷、どうって事ねぇから…気にすんな。」
涼は似合わないセリフを言うと、自分で自分の言ったことに少し照れて窓の外に目をやった。
陽が少しずつ西に傾いていっている。
「…ありがとう。」
「…礼なんかどうでもいい。それよりもお前に一つ言っておかなきゃならないことがある。」
涼は優奈を見て、妙に真剣な顔付きで言った。
その真剣さに優奈も眉をひそめる。
「言わないといけない事?」
「ああ。今日は何とか俺だけが責められて終わった。だけどな、このクラスには吉岡っていう奴がいるんだよ。」
「吉岡?私昨日転校してきたばかりだから誰かはよく分からないけど…。」
「一言でいうならこの学年の女子を仕切っているボスみたいな奴だな。…ただ、あいつのやる事は何もかも半端ねぇんだ。」
「半端ないって…どんな事するの?」
優奈の表情が次第に曇り始める。
「あいつは…今までに人に触れる事なく五人殺した。」
優奈の顔が真っ青になる。
「殺した!?ど、どういう事?もしかしてその人も魔法が…。」
「いや、奴は普通の人間だ。ただ、あいつの話術、行動が人を精神的に追い詰めるみたいだ。」
「そ、そんな…私どうすれば…。」
優奈の頭の中が真っ白になっていく。
脈も知らず知らずに早くなる。
「今更慌てても仕方がない。とにかく、あいつはなにか仕掛けてくるに違いないんだ。今か今かと餌をもらう前の犬みたいにそういう事を待ち望んでいたからな。やつから逃れる方法はただ一つ、平然と毎日を過ごす事だ。いずれ諦める時を待つんだ。」
涼が優奈の肩に手を置いて訴えかけるような目でそういうと、優奈はぎこちなくではあるがコクりと頷いた。
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