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「別に何もないけど??」
「そうか……」
涼はどこか納得のいかないまま首を傾げた。
「えーっと……じゃあ席は……廊下側の一番後ろの席に座ってください」
「え、あ、はい」
優奈はぎこちなく頷くと、少し足早に座席についた。
その時、丁度HR終了のチャイムがなった。
「あ、チャイム鳴っちゃいましたね。じゃあ皆さん、今日一日頑張ってください」
担任はそう言い残して一限目に控えた授業のために少し駆け足気味で退室していった。
その瞬間、優奈の周りに興味津々な生徒達がわっと集まった。
まるで餌にたかるハイエナである。
「あらら……凄い人気だね、彼女」
「初めだけさ、そんなの」
波に乗り遅れた二人は隅で人だかりに一度目をやって言った。
もっとも、涼のほうは興味など微塵もないようだが。
「涼の場合は初めだけじゃないけどね」
「消すぞ、藤峰」
「あう、ごめんなさい」
涼に冗談を言って敢なく返り討ちにあった和人はしゅんと萎れた花の様に縮こまった。
だがこんな事で諦めていては二人の関係はとっくに終わっているはずである。
「ああ、そうだ。涼にお願いがあるんだけど」
「お願い??何だよ」涼は半眼で和人を見据えながら言った。
こういう時、ろくでもない事を頼まれるのだと、涼の中で勝手に和人に対して意識が芽生えてしまっているのだろう。
「これ……直してほしいんだけど」
和人はそう言うとポケットからゴミステーションから拾ってきたようなボロボロのMDプレイヤーを取り出した。
やはり、ろくでもない事であった。
「……酷い有様だなぁ、これ……。何があったらこうなるんだよ??」
「今朝、学校にきてる途中に落として、しかも落ちたところが水溜まり、最後はバイクでグシャッ、だよ」
「朝っぱらから波瀾万丈の人生を送ってきたんだな」
涼は皮肉な笑顔を浮かべながら言った。
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