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クチバシティ。
カントー地方唯一の港町であり、ジムリーダーマチスが統治する。
ヤマブキ、タマムシの二都市と共に形成する三角地帯は工業ならびに経済の中心地であり、水陸両面で交通の要地でもある。人口も多く、ポケモン大好きクラブ本部がある場所としても有名だ。
「交通の要地」という一面は、この町にあらゆる「人」を集めることになる。グレンタウンだけでなくジョウトやホウエン、シンオウなど地方間の海路を結ぶため、昔からあらゆる地方の人々を受け入れてきた。
しかし、そんなこの町でも、水平線の向こうからやってくる「客人」を迎え入れたのは過去に一度(そして一人)だけ。現ジムリーダー・マチスのみ。
そして、今まさに新たに二人の「客人」が、記念すべき二度目としてこちらに向かいつつあった。
側面に「SEA KINGU」と綴られた白い巨大な船体。朝日を浴び、波をけたてて突き進むその姿は勇ましく、吸い込まれそうな青さを誇る海によく映える。
ただし、甲板上で折り畳み式の椅子に座って眠りこける男もそうか──つまりは「映える」かと言うと、それには間違いなく議論の余地があった。
顔には開いた新聞がのっかっているため容貌はうかがい知れない。しかし紺のスーツに包まれた体躯はしなやかで無駄がなく、かといって単に細いだけではなくて「引き締まって」いる。イビキをかいて惰眠をむさぼるその姿はだらしないの一言だが、おそらくシャンと立って直立不動の姿勢を取ればそれなりどころか相当様になるに違いない。
照りつける太陽も睡魔から彼を救出するには役立たず。物陰からこの光景をじっと見つめていたその人物は、やはり自分がやるしかないかとため息と共に足を踏み出した。
さざ波に紛れてデッキに響く高い靴音は、きっかし二十で終了する。
幸せそうな青年の上に落ちる拳。
靴音に変わって響くは、打撃音と断末魔だ。
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