第六章:名刑事の実力

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「だいたいなあ、俺がどこでいつ寝ようが自由じゃねえか。何だっていちいち起こされなきゃ」 「ええその通りよ。あなたが人の読みかけの新聞を持っていかなければ私も到着まで寝かしてあげたかもしれないわね。まあおこし方は変わらないでしょうけど」 「たかが新聞で顔面にチョッピングライトかあんたは。そしてその“俺=殴る”という忌々しい習慣をやめよう早急に。俺に命あるうちに」 「善処するわ」 「すげえ。“とりあえず相手の頼みごとを流したいときに使う言葉”のベスト3を常に維持する伝説の単語をここで拝めるとは思わなかった」 「何のランキングよそれ!」 「え?“とりあえず相手の」 「そういう意味じゃない!」 朝日と青い水平線が醸し出す素晴らしい一景などどこ吹く風、言葉のキャッチボールどころか豪速球の応酬になった言い合いは終わりを見せず。 甲板にはポッターたち以外にもスーツ姿で明らかに二人より年上の男女が何人かいたが、すでに慣れっこなのか止めに入る様子はない。 加えて言うなら、彼らの大部分は「野暮」とはどういうものかを心得ていた。 「それにしても」 口論も一段落し、エミリーが船縁の手すりにもたれ掛かる。   うえ 「上層部からの通達とはいえやってられないわね。故郷を離れて突然極東の田舎に飛ばされるだなんて。………それもあなたなんかと一緒に」 「うん、とりあえず赴任先のすべての人々と俺に謝れ。故郷と人格にWパンチはさすがに酷い」 頬を撫でる潮風の心地よさに目を細目ながら語りかけるその姿は十分見とれていいものなのだが、言葉の内容が悪辣きわまりない。 黙ってりゃ文句なしの美人なんだがとはポッターと国際警察に仕えるすべての男性隊員の定説である。 「それにそのセリフは俺のもんな。現実俺の方が訓練の結果も優秀だし」 ───ピキリ。 空気が凍る静かな音が、デッキの一角で響く。
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