第九章:東西奮戦記

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コンクリートをぶち抜いて足元からの奇襲。いろんな意味で常識の範疇を越えている攻撃に、白装束の反応が遅れた。 常人同士にとっては刹那の。達人同士においては致命的な。 「クロバット、アリアドス、【影分身】!」 頭上のクロバットと足元のアリアドス、そしてクロバットに掴まるアンズ。 三つの姿が同時に揺らめき、そして白装束を包囲するようにしてその姿が分裂する。 正確にはあくまで超高速移動による残像を利用した「分身」なのだが、影には見えぬほど分身と本体の見分けがつかない。 (なるほどね、流石は本家忍者) 感心の思いとともにヒカルが口笛を吹く。 (ポケモンじゃなくてその大元を直接叩くか) トレーナーを捕縛すれば指揮する者を失った手持ちのポケモンの動きが封じられるのは当然。多少禁じ手な部分もあるが、事態が事態なだけにとやかく言うのは少々酷だ。 周囲を囲うアンズの姿は本体を含めて十人。十人のアンズが一斉に白装束を指差す。 「アリアドス、【糸を吐く】!」 動きを止めたアリアドス。位置は白装束の真後ろ。 臀部の針から飛び出た糸が、獲物を絡めとるべく八方に広がる。 結果から言えば、獲物が糸にかかることはなかった。 代わりに、跳躍した白装束の放った手刀が、「本物」のアンズの脇腹に鈍い音をたててめり込んだ。
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