第九章:東西奮戦記

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風が吹く。反射的に屈む。先程まで顔があった場所を電光のごとき速度で突き出された棒が通過した。 そのまま横へ移動。肘を何かが掠めたのを感じるが動きを止める暇はない。 横凪ぎの一撃。さらに距離を取ってかわし、クナイを手にして身構える。そのまま低い姿勢で突進するが、足を払うべく打ち下ろされた一撃を避けながら歯噛みするだけで終わった。 (反撃したいがリーチが違いすぎる!) リーチの長い武器は懐さえとれば容易く勝負を決することができるのだが、彼我の機動力に差があってそもそも接近が不可能と来ている。 まさに八方塞がり。頼れる仲間二人も、数百メートル向こうの廊下で戦闘中だ。 (こうなれば相手の集中力が切れるまでひたすらに耐え抜く!) 疾風のごとき三段突きをクナイで弾きながら思考を続けるアンズは、しかしながら気づかない。 それまで反射と本能のみだからこそかわせたものが、思考を入れてしまった分最早回避不可能であることに。 「っ!?」 一瞬、本当に一瞬の動きの空白。 その一瞬をついてのびてきた一本の糸が、彼女の腕を絡めとった。 (しまっ────) 引かれる腕、浮き上がる体、壁に叩きつけられる背、火花が散る視界。全てが一気にアンズの精神に押し寄せ、彼女の意識を混濁に追い込む。 それほど苛烈な状況にあってなお意識を失わず、どころかもののコンマ数秒で視力を取り戻したアンズは流石と言えよう。 しかしその時には既に、小柄な白い影は次の一撃を加えるべく跳躍していた。 「ピース、【スピードスター】!」 「シャーリー、【渦潮】!」 星形のエネルギー弾と螺旋の水流が、その体を弾き飛ばした。
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