第九章:東西奮戦記

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「いったい何が…っておわぁ!」 爆発音の余韻の中降り注ぐ窓ガラスの破片。中でも一際大きな破片が車内から首を出していたカズの頬を掠める。 「おっかないおっかない!いったい何が………あれ?ギンさん?」 こういう場面に出くわせば真っ先にカメラを構えて車外に突撃するのがいつものギンペイであるが、だとすれば今の彼は「いつもの」ギンペイではなかった。 「なぁ、カズ」 やけに落ち着いた声と共に指差す先には、白装束に身を包んだ小柄な人間。 「あのチビスケが、このビルの十三階あたりから落下してきて軽やかな身のこなしで無傷で着地しやがった、なんて言われたら信じるか?」 「……………しっかりしてくださいよギンさん」 こめかみのあたりを人差し指でおさえ目を瞑り、懐から愛用の頭痛薬を取り出しながらカズが息を吐き出した。 「いくらスクープがほしいからってでっち上げは」 白装束の姿が揺らぎ、車の上を何かが通過する気配が過る。 「いったい何が」 「【スピードスター】!」 突然視界を覆った無数の星形エネルギー弾。二人は物も言わずに車外へ転げ出る。 まさに間一髪。ズン!という重々しい音とともに苔むした緑は黒に変わり、ギンペイの十年来の相棒はガラクタになった。 降りてきたのは、トゲキッスの足に掴まった目付きの悪い青年と金髪の美少女。美少女の首回りにはシャワーズが巻き付いている。 睨む先には白装束。 ちなみに間には命の危機に瀕する新聞記者二名。 先に動いたのは白装束だった。棒を右手に持ち直し、この場から逃げ出そうとするように一散に右へと駆け出す。 「させるか!」 少女が叫び、進行方向へ【ハイドロポンプ】。急停止からバック宙で回避。さらに追撃を側転でかわす。 「おぉ~」 「感心してる場合か!」 パチパチと手を叩くカズの頭をギンペイのごつい手が叩く。 「イテ!」 「時と場所を考えろ!今千載一遇のチャンスだろうが!」 「そ、そうですね!早く安全な場所へ」 声を潜めてギンペイに言われ、慌てて荷物を抱え走り出そうとする。そこへ、二発目の拳骨。 「何言ってんだバカ!」 手渡されたのは、取材用カメラ。 「特ダネ目の前だろうが!早く構えろ!」 「……………」 一連の事件が終わったら転職情報紙を買ってこよう…………カズは固く決意した。
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