第九章:東西奮戦記

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静寂の中に安っぽいシャッター音のみが場違いに響くが、三人は互いに視線を外さない。 わずかでも無駄な動きを入れればそれが命取りになることをすでに三人とも学習している。 ちょうど四十回目のシャッター音がなった瞬間、再び動き。 今度は男女のペアの方が先だった。 「ピース、【捨て身タックル】!」 間の二人を弾丸同様の速度で飛び越え、ギンペイのカメラが追い付けぬ間に一気に間を詰める。印象としては【電光石火】の威力を数十倍に跳ね上げたようなものだ。 「…………おいおい」 ただ、ソレを繰り出せるほど高いレベルに育成されたトゲキッスに感心するか、それをあっさりと回避できるほど高い身体能力を持った人間に驚くかは個人の感性の問題だ。 この場合のギンペイは後者。白装束はプロの闘牛士として十分食っていけると確信させるしなやかな身のこなしで電光のごとき一撃を脇に流し、 「っ!」 そのまま体を一回転させ、遠心力を利用しトゲキッスの額を棒で打ち据える。 目も眩む反撃のカウンターにトゲキッスがよろめく。 その体にめり込む右足。浮き上がり、主のすぐ手前に叩きつけられる白い体躯。 「ったく、ポケモンより高い運動神経とか反則に過ぎるわよ!」 エミリーが誰にともなく叫び、シャワーズの口から巨大な水柱が射ち出される。 「【ハイドロポンプ】!」 朝日を反射して輝く水柱。白装束は今度は避けない。 残像さえできるほど凄まじい速度で横凪ぎに払われた棒が、水流を切断した。 その光景に、エミリーが呟く。 「これはもうダメかもわからんね」 「お前さっき俺に何て言ったか覚えてる?」 そして、最後の泡を割ると同時に、白装束の体が陽炎のように揺らいだ。
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