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「こそ泥ではないわ!」
ぺちゃっという湿り気のある音は、ヒカルの額で響いたものだ。
粘着性の水滴が、鼻筋を伝い落ちる。
叫んだジュンペイが唾を吐きかけたのだと一同が気づくのに、一瞬の間を要した。
「主、あまりに失礼だぞ!我はもっと大義のために動いておる!そのような下賎な行いなど我はせぬわ!」
「………他人の額に唾叩きつけるのは“無礼”とは言わないのか?」
青筋が浮かんだヒカルの右手がジュンペイの顔を鷲掴みにする。今にも背景に劇画調で「ゴゴゴゴゴゴゴゴ」と文字が浮かびそうな迫力。
「人の話聞かずして勝手に貶めるよりかはよっぽどましじゃわい!」
その迫力に押されつつも、ジュンペイも戦意を失わない。怒りに満ちたヒカルの視線を真っ正面から受け止める。拘束さえされていなければおそらく襟首の一つもつかんだだろうと思わせる剣幕。
「おい、流石に立場わきまえろ」
「ポケモン使ってまで我に苦戦するような輩が強がるな!」
「あ゛?」
「………止めた方が良くないかね?」
「えぇ」
カツラに促され、エミリーが(拳を固めて)げんなりした様子で一歩前に出る。
「ちょいと盛り上がってるところ悪いんだがね」
その拳が振り上げられるより早く、間延びした声が待ったをかけた。
「む?」
「へ?」
「え?」
イエロー、マサキ、エミリーが驚きの声をあげ、他の面々は無言で目をみはりその人物を凝視する。
小太りの体型に、ハンティング帽。首からはカメラをぶら下げ、手にはメモ帳。
「違ったらすまんが、君、もしかしてヤト村出身者かな?」
ギンペイだ。
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