第九章:東西奮戦記

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「こちら捜査隊現在二百メートル前進も異常なし。どうぞ」 《こちら本部、了解した。前進続行》 「了解した。アウト」 通信が終わり、隊長が何度か右手を振る。前への合図。それは彼ら十名が何度も訓練の中で目にした動きだ。 (ただ、そんときゃこんなもん持っちゃいなかったわな) 右手に掲げた黒い塊────SMG(サブマシンガン)を見ながら、最後尾を歩いている隊員は思った。訓練で使われたのは警棒と自分のヘルガーだけで、銃火器など研修で扱い方を学んだだけだ。銃など彼にとっては映画の中で自分の贔屓の俳優たちが振り回すものでしかない。 (とりあえず引き金ひけって隊長には言われたけど、いつひきゃいいのかいまいちわかんねえよな) 小さいころから、デルビルの頃から一緒の相棒であるヘルガー。レベルも高く、無敵とまではいかなくともこいつさえいればどんな相手にも立ち向かえる。銃なんか持たずとも、こいつといれば戦えるのではないか。 そもそも、ポケモンに襲われたという市民の通報からして怪しいものだ。野生ポケモンとのバトルなど彼らのコンビも何十度となく経験している。 (どうせ世間知らずのマダムがバカやっただけさ) それを所轄が過大に受け取っただけだろう。最近物騒なのは承知してるが、いくらなんでもピリピリなり過ぎだっての。 彼の慢心と責めるなかれ。なぜならそれは現在歩み続ける全ての隊員の心境であり、ひいてはここ最近図鑑所有者に依存し続けた結果大事件というものそのものに不馴れになった警察組織そのものの問題である。 (まあとっとと勘違い通報を証明して帰りま) ガサリ。草むらが揺れる音が、隊員の思考を中断した。
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