第九章:東西奮戦記

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装甲車内に絶望を纏った沈黙が降りる。咳さえもれぬ静寂の空間に、無粋な甲高い電子音が割り込んだ。 《先行小隊、前衛の生命反応が消滅!これより救しゅ》 「………死体も残ってないよーな状態で何を助ける気だよ何を」 無線機を机の上に投げ出し、苦虫を数百匹口に突っ込まれたような表情でシキが席を蹴る。 「残存部隊全員に退却命じろ。これ以上ふざけた犠牲者出すわけにはいかねえ。後アサギ署に連絡かけて例のポなんとかってガキ呼び出せ」 「了解!各員に告ぐ………」 隊員の声を背にハッチを開けて外に出る。ほぼ同時に、胸ポケットから一箱の煙草が滑り出た。 「こいつぁ休む間さえ無さそうだな」 くわえ煙草に火をつけ、モゴモゴと動かしながら呟く。箱と共に、指からもう一つの「何か」が落下する。 地響き一つ。飛びかかろうと身構えた数十の影が、ゆっくり崩れ落ちた。 「難儀だねえ…………」 その呟きを最後に、シキは再び車内に身を翻した。
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