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ヤマ
『お前、この事件について何か知ってやがるな?』
切り際に、受話器から漏れ聞こえたシキの声が脳内で再生される。結局スルーで通したが、通してからようやくフミヤは沈黙が最大の肯定であることに気づいた。
「………やっぱり年期の差かね」
自分なりに、十年と少しの警官人生の中でそれなりのものを積み重ねてきたつもりだった。だが、あの白髪の目立ち始めた老獪な先輩刑事は真実が欲しいときにそれをどうすれば引き出せるかという術を心得ている。
そして今しがたフミヤは、核心をつかれて一番分かりやすい形で真実を吐露してしまったのだ。
「まあ…………まだ修行が足りないってことか」
トウマが聞けば絶望しそうな言葉を呟きつつ、着なれた背広を羽織って席を立つ。
シキがなぜあんな電話をしてきたのか、わからぬほどマヌケではないつもりだ。だが
(『今は』んなことにいちいち気いとられてる暇ないからね)
胸の内で師であり先輩である白髪の刑事に頭を下げつつ、すれ違った一人の婦警を呼び止める。
「忙しいところ悪いけどさ、四号車のキー貸してくんねえか?」
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