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「………ねえレッド、まだ続けるの?」
カスミの言葉に答えはない。荒い吐息のみがその口から漏れ続け、苦痛に歪む表情はそもそも言葉を発せる状態ではないことを示している。頬から落ちる汗はほとんど滝のような勢いで、足元に滴り落ちて水溜まりを作った。
それでも、俯きながらその顔は上下する。それは一般的には肯定の意を示す動きだった。
「………!レッドいい加減に」
「………カスミ、頼む」
張り上げられた声に被せられた言葉には力が入らず、響きはか細く弱々しい。
しかし込められた意思の強固さに押され、黙ったのはカスミの方だ。
「で、でも休憩くらい」
「フミヤさんも言ってたろ、時間無いって。休んでる暇なんか」
「それで実戦には疲労で動けませんなんて話は笑えないぞ」
自動ドアが開く機械的な音に重なる声。振り向いたレッドに清涼飲料のペットボトル──ゴールドが酷評していたアレ──が投げ渡される。
「せめて水分くらいは補給しろ。脱水症状で倒れたりしたら本末転倒だ」
レッドの目がしばらくペットボトルと入り口の人影を交互に行き来し、それからその口許をほころばせてキャップを捻った。
「サンキュ、グリーン」
「…………礼を言われるほどのことじゃないだろ」
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