第十章:戦闘態勢

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「さ、とりあえず病室に戻ってください。私としても実力行使は避けたいのでね」 両手を広げ、害意が無いことを示しながら相手は一歩踏み出した。 その足元で、マトマの実がはじける。 「………これは拒絶の意ですかね?」 「それ以外の何だと思う?」 その返事を聞き、形のよい眉の間にシワが寄る。 「しかし、だとしたら私は実力行使に移行しなきゃならないんですがね」 そんなもの、返事は決まりきっている。 「上等だ。かかってこい」 次の瞬間、体に衝撃が走った。足が水色のタイルの床から離れ、派手な音とともに背中からガラスに突っ込む。 咄嗟にモンスターボールを投げあげ、飛び出てきたヤミカラスの足に掴まり体制を建て直しながら中庭に降り立つ。 その上から降り注ぐのは【たねマシンガン】。避けるのが間に合わないと見て【翼で打つ】で弾く。乾いた音が月下に響いた。 「警察にしては随分荒っぽいな。こちらが飛行ポケモンを使えなかったらどうするつもりだったんだ?」 「君の手持ちくらい調査済みですよ?シルバー君」 特に感情を込めることなく、トロピウスの背から飛び降りながらクロと名乗った男は淡々と言った。 「それに君の実力もね。あの程度で死ぬような人間が図鑑所有者なんてやってられるわけないじゃないですか」 五階から【蔓の鞭】で叩き出されるのを“あの程度”と言っていいのかどうかは、おそらく議論の価値があると思うが………。 「で、最後に確認しますが、こちらに従うつもりは」 「ない!」 ヤミカラスが弾丸のように飛び出した。【電光石火】で懐を取ろうと急接近するが、それを必中の虹色刃───【マジカルリーフ】に阻まれる。 「あんたらには申し訳ないが俺には俺の用があってね。こんなところで油を売っている暇はない」 瞬間、ヤミカラスとは別の影が走る。胴のあたりでニューラの【騙し討ち】が炸裂し、トロピウスの巨躯が数メートルにわたり後退した。
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