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摩耶に振られた勇哉はだまって財布から言われた金額を取り出した。…まったく、この姿を学校の連中にみせたいよな。真面目な優等生、大和撫子、固い委員長タイプ。そういう評判が根底から崩れさるだろうから。もっとも摩耶の猫のかぶり方は徹底していたから、勇哉にしか本性は知られていない。摩耶が飾りなしで接してくれるのは、得なんだろうか? 損なんだろうか? それを考えながら勇哉は摩耶に続いて入り口をくぐった。
木馬で有名なトロイ遺跡の遺物や、アッシリア商人の居住区カールムで発掘されたキュルテペ文書、ヒッタイトの都ボアズキョイでみつかったニシャンタシュの印影から再考察された王名表とその業績表などは、勇哉と摩耶の歴史的好奇心を高いレベルで満足させた。さらに今回の展示物の目玉、フリュギア王国の都とされるゴルディオンから出土した全長110cmほどの槌は、摩耶が今回の展示のなかでもどうしてもみたいものだった。二千年以上の間、土の中で眠っていたとは思えないほど保存状態は良く、腐食した部分はほとんどない。柄には楔形文字が刻まれ、頂部には複雑な装飾が施されている。一説には現代の科学力をもってしても解明できない未知の金属が使われているとか。
「オーパーツに数えられるだけあって、さすがねぇ」
摩耶がうっとりしたような口調で感嘆する。勇哉も同感である。とてもこれが紀元前のものとは思えない。歴史はわからないことが多く、その判らないことを調べるのも楽しみであるというのが納得できた。しかしそのまったりした時間は長くは続かなかった。
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